ポッポ屋さん的尼崎事故の検証


 平成17年4月25日9時18分頃、JR西日本福知山線の、尼崎〜塚口で、あり得ないような脱線事故が発生し、大勢の旅客の方々がお亡くなりになりました。 お亡くなりになった方々にはご冥福をお祈りするとともにけがをされた方々にはお見舞いを申し上げたく存じます。

 さて、今回の事故ですが、常識的に考えて、ほぼあり得ないような事故なんですよね・・・ 別に私が解説をしなくちゃならないってことはないんですけど、やっぱり元業界、なんでこんな事になるんだろう? ってことで、事例研究じゃないですが、そういうことが非常に気になったりします。

 テレビであれこれ錯綜してた情報を見て、参考になったり、判断鈍らされたりと、非常に悩むモノがありましたが、出るモノもだいぶ出てきたってのもあり、私なりに見えてきたモノがあるので今回ネタにさせてもらおうと思いました。

 今回、事故ネタでテレビを見てて、いい線いってるよなって思ったのが金沢大学の教授の方。

 鉄道というモンに関して非常に客観的にモノをみてるよなって感じたのが一番大きいんですが、背景にあった彼のコンピュータのデスクトップスクリーンが、のと鉄道の写真だったのも必要以上に感じるモノがありました。

 これ、後日ともだちの床屋さんに行ったときそのハナシしたら思いっきりツッコまれましたが・・・(笑)

 今回の事故、コレをどう取るか?として、見るべきポイントなんですが・・・

・電車は、207系という新型で、先頭から←「TcMMTc+McTTc」という組成であること
・半径300mの右コーナーを
どのくらいの速度でツッコんでいったのか?
・右コーナーの前、120キロ出せるという
ストレートがどのくらいのキョリだったのか?
・一つ手前の伊丹で、8m
(実際は40mだけど、この際実はこのキョリの差は関係ないのね・・・俺としては)スベって戻したわけなんですが、それがどう絡んでくるのか?
・伊丹発車後、コーナーまでのストレート、普段はどのくらいの速度で運転してるのか?

 この辺のおはなしは、大体流れが見えてきましたので、ばっちりネタとして言いたい放題できると思っております。

 この件を確定させたいってことで・・・

・伊丹の手前、川西池田の駅を、この電車、定時で発車できたのか? 遅れてるとしたらどのくらい?

 これ、ものすごく重要なんだけど、ドコのテレビ屋もツッコンでいってないでしょ・・・ あれだけ状況そろってるのに、シロートだよな・・・ってのが私の思うトコなのであります。

 さて、これだけの材料をそろえてきたので、そろそろ状況の推測に入ります・・・

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 ラッシュのメインがそろそろ終わる9時過ぎ、実はこの時間帯ってまだラッシュのおまけみたいな時間帯で、メインエベントは終わったとしてもまだまだ混んでる時間帯なんですよね・・・

 しかも4月の月曜日ということもあり、常識的に考えると、この数年阪急からぶん取ったお客さんが多くなって停車時間は結構かかるようになってるんじゃないのかな? って私あたりは憶測しております。

 それを踏まえて、宝塚から川西池田の駅は定時じゃなく30秒くらい遅れてたんじゃないのかな? なんて憶測しております。

 それが正解ならば、運チャンは次に停車する伊丹の駅までにある程度回復しておかないと・・・当然伊丹でも停車時間をもっていかれるおそれがある・・・さりとて遅延をひきずっても、増しちゃ増延なんかさせようものなら会社にガッツリシメられるからなんとしても回復しないとならないので、ドコでそれをやるかという・・・

 加速ではどの電車に乗ってもオートマチック(古い電車はHLとかゆってマニュアルシフトみたいな電車も存在します)なので誰がやっても一定、さりとて最高速を維持する努力しても、ま、いって数秒なんですよ・・・運転ヘリクツ的に言うと・・・

 なら、ブレーキングではどうか? これ、減速度を高めに取ることができれば結構なタイムアップが期待できるんですよ・・・

 そうなら、勝負のポイントはブレーキング一筋じゃねぇの? ということになるんです。

 ってことで、このわけー運転士さんは、ブレーキング勝負を仕掛けたんでしょう・・・○浜○行で当たり前に行ってる運転方としての・・・

 結果、勝負しすぎで負けちゃった・・・もしかしたら架線電圧が高くなっちゃったor高かったのかもしれません。今回の事故車にのっかっている「回生ブレーキ」ってのは、モーターで電力を起こして、それを架線に返してあげる♪ というなかなかナイスな省エネブレーキなわけですが、それによって架線電圧が上がりすぎちゃうとその効果が一気にオチるか、最悪「回生失効」という、そのブレーキが機能しなくなってブレーキシューだけのブレーキになってしまうことがあります。

 ま、こうなっちゃったら気持ちよく2車身・・・ってのは実は別段びっくりしない事だと思います。ということで、勝負しての結果なら、過走したキョリなんか、8mだろうが40mだろうが実のトコは関係なかったりするのです。

 今回、伊丹駅をスベっちゃったってのが、ブレーキのツッコミ損ねか? それとも停車駅誤認でやっちゃったのか? この辺が大きく作用してくるなって思ったんですが、2車身40mってのは、ほぼ間違いなくブレーキの詰めすぎによる過走なんですよね・・・停車駅誤認なら、まず間違いなくもっとイきますので・・・

 結果として1分30秒延で伊丹駅を発車してるんですが、もし川西池田で30秒イってればここでは1分の増延ってことになります。

 さて、ここから一駅、尼崎に着くまでにこの遅延を0にする・・・ムリだとしてもできるだけ詰めたいって思うのはテレビでもおっさんどもが言ってたとおり、運チャンとしては当然の職責なんですね・・・

 ここで出てくるのが最高速・・・ 状況を聞くと伊丹→塚口の3.2kmで約30秒から遅延を回復してるそうなんです。 これでわかることは、福知山線の快速電車ってのは、通常100キロ程度の運転である・・・ということでしょうか?

 ま、運用してる電車が201系207系ってことでランカーブ(ダイヤを作るために、電車の性能を計算でシミュレーションできるんですが、それをもとにして作った曲線で、ココでどのくらい出すとかこの辺からブレーキかけるとか、基準が出せます。そして、そこではじき出されたモンが、運転時分になるわけです。)は遅い201系に併せてるんじゃないのかな?って思うと、やっぱり最高100って設定なのはおかしくないんです。

 ところが、福知山線は北近畿X(えっくす)ネットワークってのがある関連で、特急も走る。そうすると線路の方の最高速は120キロで設定してある。さらには新型の207系は車両としても120キロ出しちゃってもOK♪

 これすなわち、制度としては伊丹から塚口までの3キロからのストレートは、120キロ全開ドライブはしかるべきワザでしょ♪ って考えるのは運転士として不思議な事ではありません。

 ○浜○行の快特ですが、一応ランカーブ上、最高速110キロって列車も存在してると思うんですが、これ、遅延してた場合、全車「増圧ブレーキつき」なら120キロやっちゃっていいよ♪ って事になってるはずです。

 同じように、わけー運転士さんは、制度上問題ないけど多分やったことないだろう全開ドライブを敢行しちゃったんでしょう・・・

 普段100キロ程度で走っている電車が120キロきっちり出てれば、お客さんも「なんか速くねぇ?」って思いますよね?

 テレビにて、運転台ギャラリービデオを拝見した感じでは、伊丹から全開コイても、私なら塚口の通過では一応100キロ程度まで減速しておくかな? 混んでる電車だから・・・ あそこの駅、通過する線のトコが、左寄りにふくらんだ感じの線路配置なんですね・・・ テレビで聞いてると、あそこでぶっ飛んだなんてお客さんの話からすると、あそこも気持ちよく120キロ出てたと思うんです。

 で、塚口をすぎるとすぐに名神高速のガードで、そこから300Rのコーナーはすぐ・・・ あの電車の高速域のブレーキ性能ってのが私にはわかりかねますので正確なことを言えませんが、とりあえず名神のガード下からのツッコミだったら、あのカーブで70キロには落としきれないでしょう。 パッと見た感じだと、私なら、塚口を全開通過しちゃったとしてもそこを通過後にブレーキングかな?

 完全につっこみ過ぎかと思われるあのコーナリング・・・事故車のモニタをチェックしたら、108キロから出てたらしいんですが、運転経験者として、そりゃムリだよ・・・って思います。たしかに振り子電車なんかだと「本則+25キロ」とかありますけど、あの辺とかって、車高下げてあったりとかしますからねぇ・・・

 たしかに、理論上133キロまではOKだと言う数字が出てるとしても、いわゆる「カタログスペック」でしょうから、それ通りに必ず行くってもんじゃないだろうよって私は思っておりましたし、運転経験者なら大体の人間がそう思うでしょう。

 にしても、運よくあのコーナーをクリアしたとしても、車内のお客さんは相当な数、けが人出していたかと思います。そうなったら明らかに運転士の責任事故になりますね・・・今回みたくなってもそうですがヽ( ´ー)ノ

 で、オーバースピードでツッコんで、イン側の車輪が浮いて片輪走行状態になったなんて目撃談がありますから、そこで非常ブレーキを手配したとしても、ま、あとのおまつりってもんで、脱線はしますよね・・・

 さらに不幸なことに、7両が全部新しいシリーズの207系なら、「McTMTc+McTTc」という編成になってたでしょうから、おもてい「Mc」ってのはコケてもひっくり返りにくい長所があります。 また、片輪走行状態にならずにすんだかもしれませんよね・・・

 とにもかくにも、かくなる上は「if」は禁句になりますし、イッペン飛んじゃった「軽いTc」は、後ろにあるおもていモーター車に押し込まれるようにマンションのガレージに入れられ、くっついてた2両目のM車は3両目に押されてカベに巻き付くようにひっかかっちゃったんだろうと思います。とりあえず、車両の向きがそうだとおもうよと語っておりますし・・・

 このときの減速度で考えると、ものすごい数字が出ると思うんですね。秒間70キロとかそのくらいの減速ですぜ・・・かすり傷程度ですんだ方々はめちゃくちゃラッキーだったと思います。

 その勢いでカベなんかにたたきつけられても命に関わりますし・・・

 で、その後の状況は、もう私がどうのこの申し上げる必要はないかと思っております。

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 実のトコ、内情その他は全く知らないので、ココに関してはあまりつっこんだことを言えませんが、会社の方は、列車遅延に関して、必要以上に厳しいことを運転士に要求してきたらしいということでした。遅延はお客様のメイワクになる・・・たしかに言えてるには言えてますが、会社として、遅延のシミュレーションはちゃんと取ってるのであろうか?

 4月のラッシュなんて、「ラッシュ」になれてない人たちが電車に乗りに来ます。 それこそなれまくると、ホームに満員の電車が到着すると、みんなが走って出てくるようなイキオイで一気にお客様が降り、それが終わったかと思うとホームにいるお客様が、信じられぬようなイキオイで車内に駆け込んでいくような感じで入っていきます。駅員でそれを初めて見たときはコトバを失いました。そのくらいに芸術的に乗り込んでいくんですよ・・・

 あんなもん、相当なれてないとムリだって・・・でもって、学生はそれがかなり弱い・・・って考えると9時頃のラッシュは停車時間がキツいんです。増しちゃ4月・・・新入生なんかは、ご乗車頂く立場の目で見ると、やっぱりおそいんですよ(笑) で、遅延が発生する。こういった、「多客順延」は、やむを得ないんじゃないの? ってのがまず思うこと。

 そして、尼崎ジャンクションの定時運行チェックの件ですが、尼崎って、そんなにシビア?

 私の記憶とイメージで恐縮ながら、尼崎駅は、たしかに東海道線(神戸線)と福知山線(宝塚線)・東西線の交差点になる駅。ただ、神戸線←→東西線・神戸線←→宝塚線などの場合は多少のクロスがあるのかな?とは思うんですが、そうじゃなければ東西線は地下線だし、宝塚線は高架を通っていく線なので神戸線を直には支障しない・・・

 実際、こういうシチュエーションで1分とか遅れたトコで、たしかに3方向に行く列車全部が1分ずつ遅れるかもしれませんが、結構何とかなります。そんなに目くじらたてて乗務員を締め上げることで何のメリットがあったのだろうか非常に疑問に思うトコがあります。

 増しては状況にもよるんですが、各駅の停車時分の査定はちゃんとに行ってるのだろうか? 停車駅を誤認して100mとかイっちゃって・・・なんて状況での厳罰はやむなしって思いますが、結果としての1分30秒の遅延とか、そういうたぐいのモンで厳罰とかって、正直あり得ないはなしだと思います。

 私が鉄道屋になってしばらく・・・TOPが変わったときに「安全は、空気のようなモノである」とのたまわったのが居ました。

 確かにお金を払うサイドの意見であるならば、この言葉、当然のことですし、そうで居てくれなくちゃマズいでしょって思います。

 しかし、お金をもらう立場の、しかも上役の人間が、それを言ってしまうのはアウトなんですね・・・

 安全を空気のように当然のこととするための気持ち、努力、取扱・・・長年の蓄積であり、放っておいてそれが実現するワケじゃなく、みんなが努力しての結果なのに、それが普通のことのように言われたことが、現場サイドとして、非難囂々だったのを、ずいぶんすぎた現在でも記憶に鮮烈であります。

 でも、JR西日本のサイドって、そういう心理が働いてたんじゃないの? って思わざるを得ないトコもありますよね・・・

 安全は当然のこと、たしかに鉄道屋ってフェイルセーフな様になってるのも認めますが、それは運用してる人が勝負しちゃうと崩れることがあるんですよね・・・そういうトコがわかっていないで、上役はわけーしに勝負を強いた・・・そういうトコが見え隠れしてると思います。

 私なりの結論として、これ、運転士も運転士だけど、会社も会社・・・運転士にムチャをしなくちゃって思わせる心理状況に持ち込ませたのは、おそらく会社の問題だと思います。

 確かに速いは正義というトコはありますが、無茶な運転って事では、以前あった、中央緩行線の東中野の事故ってやつの教訓はまったく活かされてないワケね・・・という事になります。

 状況はかなり違いますが、あの事故も、「遅延は罪悪」みたいな運転士教育がなされ、そのプレッシャーに負けた運転士がB型ATSを除外して運転してたとか言われております。

 あの事故を受けて、JR東日本では東京近郊区間の電車線には根こそぎP型という新型ATSを投入しまくりました。まさしく「人柱」だったわけですが、結果として、東京近郊のJRは、信号関係ものごっつ安全よ♪って言えるようになっております。

 ただ、今回の事故、テレビでは、おもしろ半分にATSの問題をあげておりましたが、今回の事故では、ATSに関しては、私が「単なる車内警報装置であんなモン『自動列車停止装置』ではありえない!」ってコキ落としているS型だろうが、日本一安全と言えるような「自動列車停止装置」であるP型だろうが、あれは未然には防げないと思います。

 あくまでもATSは、信号機の現示に対して行うモンであるので、曲線などの速度制限は通常チェックさせないんです。一部の例外が、実はあるんですけどね(笑)

 そこまでやるならATC(自動列車制御装置)なんかを投入する必要があるのかななんて思います。 特に、最近東Qあたりとかに入っているそれは、チェック速度がかなり細かくできてるはずなので(通常の在来線ATCは、0 15 25 45 55 75 くらいしかチェック入らないと思います)こういう曲線の速度チェックには対応できるかと思っております。

 ATSをコキ落とすなら、まず、もっと前の九州のカマホリとか、最近あったくろしお鉄道宿毛駅に南風号がツットっちゃった事故の時にガンガンやるべきなんですが、多分、それをマジでやったら・・・どっちも経営的にヤバくなるでしょうね・・・で、ウラでバックれちゃったんじゃないの? って今回の件でひしひし感じます。

 今回の事故の件に関しては、たしかに、今のATSはS型だとしても、もうP型にしちゃうから関係ないもん♪ なんてのがものすごく感じられます。

 なんとなく、ひでぇハナシって思いますが、ただ、個人的には、この事故を受けて、JR各社がP型ATSを入れてくれるなら、それはそれ、いいことかと思いますが、これ、以前の鶴見事故&三河島事故(いずれも昭和30年代)を受けて今のATSを投入した経緯に近くなっちゃうし、いいことなのかどうか結構疑問に感じますね。

 とにもかくにも、戦後の鉄道の歴史のなかで、記録に残っちゃうような大事故。お亡くなりになった方々、おけがをなされた方々には本当に忌まわしい事故かと思います。

 なんか、こう、テレビ見てて気になったこと、いろんなトコにプレッシャーかけられてただろう運転士の苦悩(思いこみで恐縮ながら)、そういうのが気になったので今回ネタにしてみたのでありました。

 さいごに・・・これ、私の仮説です。正解である保証は全くできません。 こんな仮説もあるらしいわ・・・程度に見て欲しいなって思います。それだけはよろしくお願いいたします。