Letter From 

   LosAngeles

ある一つの自由のカタチ


 ロングビーチで月1回開かれる、車の個人売買大会みたいなやつに行ってきた。なにせアメリカでは車が身体の一部になっているくらいだ。量も数も半端じゃない。でもこの大会、普通の車を売買している訳じゃない。

 カスタムカーやオールドカーがメインだ。

 ロスは確かにオールドカーをよく見かけるが、思った以上に一般的ではないのが現実。

 あの死ぬ程カッコ悪い所ジョージやヒロミなんかに騙されている人、多いでしょ?まぁそんなのがが憧れるアメリカの車がそこにはワンサカ集まっているってわけだ。

 ピカピカの30年代のフォードやファイヤーパターンが描かれているカスタムビートル!

 シボレーのV8エンジンむき出しのマッスルカー!挙げ句の果てには本物のNASCARやゼロヨンカーなんかが売っている!公道で走れないものを買ってどうしようというのか?

 そしてピカピカのカスタムパーツの山!(詳しくは雑誌DAYTONAを読んでくれや)しかもお値段は日本の約4分の1ときたもんだ。車好きには生唾モンだねこりゃ。カリフォルニア中の車バカが集まってきている。

 さて今回のメインは車じゃない。そこに集まる人々の話。

 この国には本物のヒッピーがいまだにワンサカいる。

 「70年代にヒッピー気取っていた大学生が結局・就職しました」そんな日本とはエライ違いだ。

 70年代の映画「イージーライダー」をそのまんま現代まで貫いている奴らが多いのなんのって。

 ガラも悪い!ZZ・TOPかブルースブラザーズはたまたロカビリーなんかもいるわけだ。

 問題なのはそいつら全員50〜60代のオヤジだ。

考えてもみてくれ!そんな50、60代のオヤジがゾロゾロいる光景を日本で見られるか? 1万人横浜銀蠅大集合!これが一番適当な言葉だ。ヒゲ!リーゼント!長髪!なんでもありだ。

 しかしジェームスディーンを気取ったオヤジにはびっくりした!60代後半のオヤジなんだけどさ、白のTシャツにリーバイス、そして赤いジャンパー!そう!「理由なき反抗」のジェームスディーンだ。

 だけどハゲ!

 おっさん!そりゃ反則だよ!

 あっ!あとエルビスみたいなオヤジもみたなぁ・・・エルビス後期バージョンのね・・・(カッコよくない)

まぁいいや

 映画「アメリカン・グラフティー」に出てくる殆どの車に出会うことが出来るこの会場で御自慢の車を、売る気も無いのに見せびらかすオヤジがいたり(だいたい窓も屋根もないのにどうやって走れッての!)錆だらけのパーツをレディオフライヤー(しってます?)に山盛りにしているオヤジが行き交いこれ以上入れる場所がないほどの入れ墨を入れたオヤジなどは、70年代カルチャーの小物を売っている。

 そんでもって 会場の隣では「ゼロヨン大会」がひらかれているのだが、朝の時からベロンベロンに酔っぱらったオヤジどもで大盛り上がり!

 バイヤーのオヤジ共はキャンピングカーにパーツを積み アメリカ中のこういったイベントを家族で何十年も渡り歩いている。マリファナの臭いをプンプンさせた中で子供がポケモンカードで遊びながら店番しているなんて見慣れた光景だ(学校は?)

 簡単に言ってしまえば「日曜の朝に教会に行かないフトドキモノ」の集まりに近いんだけどね。

 みんなとにかく楽しそうだ。おもちゃ屋にいるガキと変わりはないよ あの目は・・・

 それにしてもカッコイイものが沢山置いてある。車にはそれ程思い入れのない俺にもそう思わせるものがある。

 「古き良きアメリカだね」

 一緒に行った知り合いの言葉にうなずく。

 憧れのアメリカ・・・こじんまりとはしているが、俺は昔アメリカってこんなイメージで受け止めていたなァ・・・リーバイス、カスタムカー、ドライブインシアター、っておい!わしゃいくつだ!?

 「アメリカは自由を語るのは好きだが、自由を見るのは恐いんだ」

 映画「イージーライダー」の中でジャック・ニコルソンが言ってた台詞。

 あの場所にはそんな自由と車を愛して止まない人達が集まっているが、いくらアメリカといえども そこまで器がデカイわけじゃない。社会的にあのオヤジどもは明らかに異端だ。

 「社会なんて糞くらえ」良いか悪いかは別として、そんなスピリッツを50、60になった今でも持っているオヤジども。問題はそんなオヤジがのほほんと暮していける国だってこと。しかも所帯持ちでね。

 よく考えてみよう。「好きなことは、何を犠牲にしても止めない」という事についてだ。

 将来ジジイになって身体が不自由になった時、毎日車で移動なんて生活・・・

 帰るべき場所(HOME SWEET HOME)が無い生活・・・

 自由はそれ以外にも多くのリスクを背負うものだ。そして家族がいるからそんな生活は送れないし責任だってある。もちろん収入だって不安定だ。どんな綺麗事を言ったって金がなければやりたい事も出来ない。

 一般論だよね。でもこれって・・・ほんの少しの度胸だけでできる事かな?きっと理由なんかないんだしこんな事「議論」もしないし「考えた事」なんかないんだろうな。「自然とそうなった」って感じ。

 だけどそんな不安を踏みにじったかのように自由に生活するオヤジどもの背中に俺は言葉では表現できない自由を見た気がする。

 ニューオリンズに高校時代の大親友が住んでいる。そいつが毎度言う台詞がこれだ。

 「ニューオリンズって場所はアメリカでも特殊な街で、幾つになっても自由を求めるワガママで責任感のないオヤジが、ブルースと酒をポケットに入れながら簡単な仕事を毎日探しながら時間をつぶし、最後に腐っていく街」だと言う。

 つまりあのオヤジどもの最後の楽園らしいのだ。それはほとんどのヒッピーが老後 あの街に行く事からみても一概に否定できない。 「人間は死に場所を求めてさまよう動物」と言う人もいる。

 あのオヤジどももニューオリンズへ行くのだろうか?いや、たどり着けるのだろうか?

 どちらにしても、貧弱な俺はリングの外で「ある一つの自由のカタチ」を眺めているだけ。

 そして「ちっぽけな自分」に少し自己嫌悪になってみて、明日の朝すっかり忘れる。ただそれだけなんだけどね。

 そういえば、流行りとかそんなもんを気にしないで生活できるこの国が、最近「楽」な事に気が付いた。

 あんな不良オヤジが生きていけるのは、「他人の目」を気にする事が少ないアメリカならではなのかもしれない。

 もしあなたがロスに観光で来て「アメリカを見つけられなかった」と失望したなら(必ず失望するんだけどね)ここに行ってみることをオススメする。きっと何かを思うかもしれない。

 そして「日本に住んでてよかったな」と確信するでしょう。

 だって俺、色々言ったけど最後には「日本の社会とか常識とかって嫌いだけど・・大切なんだな」って思ったもんな。